夜。
男が望遠鏡のレンズを覗き込んでいる。
しかし、レンズが向けられているのは星空ではなく、もっと低い、水平に近い角度。
男はあぐらをかき、額に汗して、口を半分開いたまま、
己の眼球をこすりつけんばかりにレンズを凝視している。
何時間もの間、ずっとそうしている。
男が何を見ているのか、それは分からない。
男の傍らにはコンビニエンスストアかスーパーで購入したものと思われる
おにぎりやサンドイッチの包装フィルムのゴミ、
空になったペットボトルなどがいくつも転がっている。
しかし、朝になると男はもうそこにはいない。
そして夜になると男はまた姿を現し、前日の夜と何一つ変わらぬ様子で
望遠鏡のレンズをひたすらににらみ続ける。
そして朝には姿を消し、夜になるとまた姿を現す。
それが、幾日も、幾日も、幾日も続く。
一体いつからそうしているのか。
この男の目的が一体何なのか。何かをずっと見ているのか。もしくは見ようとしているのか。
分からない。さっぱり分からない。皆目見当もつかない。
しかし気になる。
何かあるに違いない。
何か、よほどのことに違いない。
気になってしょうがない。
気になりすぎて夜もろくに眠れない。
通信販売で買った望遠鏡が、今や当初の目的とは違う形で大いに活躍している。
いつの日からか、わたしの傍らにはコンビニエンスストアやスーパーで購入した
おにぎりやサンドイッチの包装フィルムのゴミ、
空になったペットボトルなどがいくつも転がっている。
隣の部屋の住人が、狂ったような音楽を、馬鹿デカい音で流し続けている。
日本コロムビア (2003-09-03)
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