暖かい陽が差し込む。
病院。一般病棟の3階の個室。
窓際に置いたイスに座って外を眺めている。
雲の切れ間から降り注ぐ太陽は、まるで神の裁きのように
街のあちらこちらを照らしている。この病院の、この部屋も。
街路樹に葉は無く、血管のような幹や枝がむき出しになっている。
その代わりを務めるように、通りを行く人々はコートやジャケットを纏う。
窓を一枚隔てた向こう側は冷たい空気なのだろう。
病院の中は季節感ゼロの生ぬるい空気。
巨大な生命維持装置のようなこの建物の中では
生きている実感というものは否応無しに、徐々に徐々に薄らいでゆく。
時々、「おれはずっとこのままここから出られないんじゃ…。」という気までしてくる。
僕をにらむ 君の瞳の光は 忘れかけてた まごころ 教えてくれた
枕元に置いたCDラジカセが、尾崎豊の「傷つけた人々へ」を歌っている。
これが、このCDラジカセだけが、この巨大な生命維持装置の中にある
唯一つの「生命実感維持装置」だ。
ツマミを少し回して、ヴォリュームを上げる。
上げた分だけ、その分だけ生きている実感もまた増してくる。
窓の外を眺めながら、街を、街路樹を、人々を眺めながら
また少しヴォリュームを上げる。
太陽が少しだけ傾く。
あと十数秒もすればいつものように
いつものナースが音量を下げるよう注意しにこの部屋にやって来て
いつものようにおれはそれに従うだろう。
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