「Got My Mojo Working」- Muddy Waters


ちりんちりん
店のドアが開き男が入ってくる
ちりんちりん
再び店のドアが開き男が入ってくる
ちりんちりん
今度は女が
ちりんちりんちちりちりんちちりん
男 女 男
年齢 服装 肌の色
まるで統一感を感じさせない人達が
ちりんちりん
という音とともに次々に入ってくる
お世辞にも広いとは言えない店内
黒く分厚いカーテンによって
外界からの光と視界が遮られている
ちりんちりん
何十何回目かの音が鳴り
男が入ってきてドアの鍵と入り口のカーテンを閉める
店内は客でごった返しているのに
呼吸の音が聞こえそうなほどの静けさ
まるで死者の集まりのような
あの世への中継地点かのような
薄暗いその店の名前は「トランジット」
誰かが何かの機械のボタンを押し
機械のディスプレイに
B O N   V O Y A G E !
という文字がゆっくり流れて行った後
どこからか音楽が聞こえてくる
地下深くの独房で鳴っているような
激しく暗い湿り気をまとった音楽
諦めとやぶれかぶれと脳内麻薬が滲み出た声
店内は次第に白っぽいもやに包まれていく
よく見ると閉め切ったはずの窓や入り口のドアから
その白い何かがまるで生き物のように
カーテンの隙間から入り込んでくる
せまい店内はみるみるうちにもやもやで充満し
薄暗さも相まって視界はますます悪化
死んだような客達はみんないつの間にか
水揚げされたばかりの魚達のように
押し合いへし合いしながら思い思いに踊っている
ほとんど視認はできないものの雰囲気で分かる
みんなじつに生き生きしている


ちりんちりん
鳴り響く音楽の向こうからかすかに聞こえる
聞こえるような気がする
聞こえるような気がするような気がする
ちりんちりん
ちりんちりん
ちりんちりん


どれくらいの時間が経ったのか
いったいいつまでこれは続くのか
魔術的な音楽のせいか
肉体と意識が分離してしまったのか
不思議なことに疲れを感じない
音楽や踊りはますます激しさを増し
反比例するように時間感覚や肉体感覚は薄れ
もやもやはいよいよその濃さを増すばかり
フェイドアウトしてゆく意識の中
ふと思い出した言葉を口の中でつぶやく
ボン
ヴォヤ〜ジュ


Anthology
Anthology
posted with amazlet at 15.02.09
Muddy Waters
Not Now UK (2011-04-12)
売り上げランキング: 4,681

Trackback(0)


(言及リンクのないトラックバックは無視されます)

Comment

Calendar

アーカイブ

このブログ記事について

このページは、くるっくるが2015年2月10日 00:14に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「「Good Enough」- Izzy Stradlin」です。

次のブログ記事は「「Is That a Riot?」- Youngblood Brass Band」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。