「White Elephant」- Mike Mainieri

「雪の象」

大雪の夜
世界中にミュートがかかっている
僕は1人で布団にくるまって
暖かさと寒さを同時に楽しんでる


そんな中
外から微かに地響きが伝わってくる
だんだん大きくなってくる
何かでかいのが通るみたいだ
僕はパジャマに上着を羽織り外に駆け出す


家の前には、大きな白い象
頭に背中に牙につぶらな目にも
降りしきる雪を積もらせて
寒さをものともせず、ゆったり通りすぎていく


これがじいさんの言ってた、雪の象
僕は後を追って走り出すけど
意外に早くてなかなか追いつけない
僕は足を滑らせ転びながら
雪まみれで何とかついていく


だいぶ家から離れた空き地で
象はふと立ち止まる
僕はやっと追いついて
象の尻尾をつかんで背中によじ登る
思ったより大きいな
一面真っ白な世界を、少し高みから見渡す


僕を乗せたまま、また象は歩き出す
どこへ行くんだろう
その時、じいさんの言葉を思い出す
雪の象は、大雪の中心
台風の目みたいなもんだ
見つけたら象を殺さないといかん
でないと、雪は決して止まない


その時、僕は聞いたっけ
見逃したらどうなるの
じいさんは当然のように
他の誰かが殺すだろうと言ってたな
見つけた誰かが殺すから雪が止む
みんなその事を知らないだけだと


僕はこの象を殺さなきゃならないのかな
悪気のある生き物には見えないけど
背中に乗って雪の中を移動するのはとても楽しいし
僕と一緒で心なしか象も嬉しそうだ
それに家から何の武器も持ってきてない
素手でどうやって殺せばいいのか


と、考えていたとき
雪を含んで冷たく重い空気を切り裂いて何かが飛んできた
次の瞬間、象の額に矢が刺さり
象はゆっくりと膝を折って地面にうずくまる
僕は呆然として、象の背中から動けなかった


そして象の額からは血が流れ
積もった雪に染み込んでいき
それを合図にしたように
吹雪は少しずつ収まる
確かに象が死んで雪が止んでる
でも、思ってたのと様子が違う


僕は気づいた
じいさん、象が大雪を起こしてるんじゃない
象はただ大雪と一緒に現れるだけ
自分の命と引き換えに、雪を止める役割を担ってる
象が死なない限り、大雪は決して止まないさだめ
でも、それに気づいたからどうなる?
象を殺さず見逃せば、大雪で人々が埋れてしまう


僕は理不尽さに涙を流した
でもすぐに悲しみは驚きに変わった
象の血が流れた跡の雪が溶け
地肌とわずかな緑が見えている
自分の命に替えて、春を呼ぶ象
いや、象自体が「春」なのか
まさに息絶えつつある象の顔に触れると
その目に、涙が光ったように見えた

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このページは、YUKIが2015年1月26日 23:17に書いたブログ記事です。

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