「Revolver Fires」
月はいつも丸い形をしていて
太陽の光が当たる部分だけが輝いているのだと彼は知らなかった。
ろくに勉強をしてこなかったせいもあるが、
太陽なぞほとんど見ずに過ごしてきたからだ。
闇に溶け込む黒いフェンディのスーツに烏色のボルサリーノ。
周りを明るく照らすのは銃口くらいなもので
彼は自分の骨さえ真っ黒だと思っていた。
いいか、振り返ってはいけない。
何の為に前を向いていたのか考えろ。
背中の傷が痛むだろう。
それが全てだ。
ありがたみも何も無いが、死んだ誰かの言葉が身に染みている。
銜えていた煙草を持ち上げて月の輪郭をなぞってみると
欠けたその境目は不安定に揺れた。
何を見たか誰も知らない。
けれども確かにそこに存在する。
だからいつ何時も、どんな些細な瞬間でも
油断するわけにはいかないのだ。
誰が離れて行こうとも構っている暇などない。
右腰にぶら下がる重みだけに安心できる。
誰も傷つけたことのないお前は優しいなァ。
そう呟いた彼の口が三日月形になった時
遠くでまたひとつ星が増えたのだった。
END
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