「The Island」- The Millennium


昔の話をしよう
あれは自分がまだ小学生のガキんちょだった頃
家族で海外旅行に行こうという事になった
なんていう国だったかは忘れたがたしか東南アジアだったと思う
なんせ20年くらい前の話なので記憶も曖昧である
船旅で長い時間をかけて自分達はある島に着いた
例によってなんていう島だったかはカケラも覚えていない
滞在期間は1週間ほどだったと思うが
3日だったかもしれないし10日だったかもしれない
まあそんな事はどうでもいい
自分はその島に着いてすぐにある女の子と友達になった
滞在期間中はほとんど毎日一緒に遊んでいた
だいたい察しはついているとは思うが
その子と友達になった経緯も現地の子かどうかも年齢も忘れた
見た感じ年齢は自分と同じくらいだったと思う
おそらくいろんな話もしたのだろうとは思うがほぼ忘れた
ただ何故か名前は覚えている
「マーシ」
そう
たしかに「マーシ」といった
ぼんやりとではあるが名前以外に覚えている事もある
暑くてジメジメするが風が吹くととても心地良かった事
波が穏やかな海は少し緑がかっていた事
砂浜の砂が驚くほど白かった事
空の青がとても淡い色をしていた事
笑った時のマーシの顔がどこか悲し気だった事
その島に滞在した時の宿がどんなだったかとか
どんな料理を食べたとか
家族とその島のどこに行ったかとか
以下同文であるが
そんな記憶曖昧ぼんやり旅行の中でも
はっきりくっきり覚えている場面が一つだけある
約20年経った今でもまるでつい最近の出来事のように思えるほど
脳裏のかなりアクセスしやすい所に鮮明に焼き付いている

その時自分とマーシは砂浜の隅っこの方にある
大きな大きな岩の上に仰向けに寝転んでいた
海も砂浜も空も例の緑と白と青で
心地良い風が吹いていて
どこを見渡しても太陽は見当たらなかったがとても明るかった
二人並んで淡い空を見上げたまま自分はマーシに聞いた
「なあ おれら どこに行くと思う?」
一体何を思ってこんな事を言ったのだろうかと今は思うが
その時の自分が視線の先で風に流されて行く雲を
ずっと目で追いかけていたのを覚えている
マーシは言った
「どこへも」
流れる雲から視線をマーシに移す
マーシは例のどこか悲し気な笑顔でもう一度言った
「どこへも行かない」
何とも答えられず視線を上に戻すと
ついさっきまであった雲はもうどこにも無かった


これはつくり話である
小学生の頃に海外旅行なんてした事も無ければ
東南アジアに行った事も無い
未だに一度たりとも無い
マーシという名前の女の子も知らないし
緑がかった海も白い砂浜も淡い青の空も見ていない
つまり最初から最後まで真っ赤なウソなのである
でも
あのやりとりとあの笑顔だけはどうにも
どうしても焼き付いて消えないでいる
つくり話なのに
世の中不思議な事はあるものなのである
あのやりとりとあの笑顔が
今の自分を動かす原動力になっている
そんな気さえしてくるのである


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このページは、くるっくるが2014年10月 3日 23:10に書いたブログ記事です。

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