「So Far Away」
気味の悪い夢をみた
現実ではないとわかっていても心がどこか落ち着かない。
窓の向こうは気持ちのよい秋の陽気。
カーテンが揺れ、首筋を落ちる一筋の汗を涼やかな風が悪戯に撫ぜた。
ふと、小学生の頃に担任の先生に教えてもらったおまじないを思い出す。
「胸の真ん中を手のひらで3回叩いてみましょう」
悪いものが全て飛んでいくというそれを、当時は悪夢を見たときや友人と喧嘩したときなどによく実行したものだった。
何十年も忘れていたのにどうして今頃になって思い出したのだろう。
悪いことばかりで叩くのが追いつかなかったせいか。
あるいは、もしかしたら今までずっと夢の中にいたのだろうか。
小学生の夏休みがずっと続いているかのような毎日になった今。
もてあます時間に良いも悪いも感じなくなった。
カレンダーの×印だけは意気揚々と、歳の増えない誕生日へと向かっている。
家の外では子どもの声が聞こえ車の走る音が通り過ぎて行くのに、
この何十億人の中でたった一人がいないだけで、自分ひとり取り残されたような気持ちになるのはどうしてだろう。
水を飲みに行こうと立ち上がって、ふと立ちすくんだ。
薄く開いた扉の向こうの暗さと今朝の悪夢が靄のように交差する。
恐怖は見間違いのように一瞬で過ぎ去り可笑しさが込み上げてきた。
この歳になって怯えるものなど、もう何もないのに。
そう思いつつ、なんの根拠もない遠い昔のおまじないを実行したのは、この薄い胸の中にもう消えたと思っていた小学生の頃の自分がまだいるからなのだろうか。
胸を叩きながら、悪いものが全て飛んでいくのを確かに感じた。
END
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