ようこそのきみへ
だいぶ気温が高くなってきたね。
暑さが苦手なきみは今頃舌を出して大木にしがみついていることだろう。
海のある場所に生まれたかったとよく言っていたよね。
でもきみの不機嫌な顔には緑がよく似合っていた。
怒ったり笑ったりする不安定さは夏のよう。
カンカン照りの昼間と肌寒い夜。そして突然嵐がやってくる。
不完全なものほど良いものはないと思うよ。
空白は心を緩めイマジネーションを加速させる。
毎年夏にいくらかの可能性を感じるのはそのせいだ。
夏は永遠の子どもで、永遠に不完全のまま。
さて、今日はいいことがあった。
いつも通り休憩をしながら湖のふちを歩いていたら
ふと足元に石ころが数個無造作に転がっているのを見つけたんだ。
そのほとんどにカラフルなペイントがしてあり、手に取ってみると
どうやらまだ半乾きで絵の具がとろりと垂れて靴の上に落ちてきた。
よく見ると記号や図形が描かれたものもある。
まさか宇宙からのメッセージだろうか。
不思議に思ってしばらく眺めていたけれど、はたと気がついた。
これはもしかしたら、あの石だ。
試しに色のついた石を集めて並べてみると、
湖を一周すると決めた時に作った×印と同じ大きさの×印になった。
ということはどうやら一周できたらしい。
そう思って改めて周りを眺めてみると、見覚えがあるような気がしないでもない。
とりあえず両手を挙げて万歳してみたが可笑しくて笑ってしまった。
湖一周なんてなんてことなかった。
特別壮大な冒険があったわけでも、湖に隠された秘密があったわけでもない。
淡々と歩き、着いた。ただそれだけだった。
感動もないし嬉しい気持ちも達成感もない。
でも可笑しくてゲラゲラ笑った。
その場に転がり涙が出るほど笑った。
カラフルにペイントされた間抜けな石たちだけが
ようやく再会できた喜びを感じているようだった。
今夜はここにテントを張って寝ることにするよ。
明日の朝は早起きして、湖から離れるつもり。
しこたま食べた腹が苦しい。
魚だらけの腹の中は湖みたいになっていることだろう。
今日は珍しく夢を見そうな予感がするよ。
じゃあね。
きみが夏に負けませんように。
ようこそより
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