おかしなきみへ
やぁ、元気かい。
すっかり暖かくなって、この間はテントの外に寝袋を敷いて寝たんだ。
顔の横には生まれたばかりの土筆が2本。
土の中から春の香りがして、それが頭の中をとろんとさせて
何の夢を見ていてたのか思い出せないほど
深い深い眠りだったよ。
...まぁ、いま思えばあれは春の香りのせいでなく
近くに生えていたキノコの胞子のせいだったのだけど。
目が覚めたのか、まだ夢の中なのかわからない錯覚に陥ったんだ。
上も下も右も左も分からない。
いま自分がどこにいるのか、何をしているのか。
腕が自分の腕じゃないみたいで、動かしても動かせているのかさえ分からない。
見たことも無い色とりどりの木々が
何百メートルもある枝を絡ませ合いながらぐねぐねと踊り
空には星や太陽や虹が出たり消えたりしていた。
目隠ししてチョッパーに股がって、最高速度で山を駆け上がったり駆け下りたりしている気分さ。
ドアーズの曲が頭の中をメドレーになって流れ続けてた。
何百キロも何千キロも走っていた気分だった。
もう湖も見えないほど遠くにあって、別の大陸まで来てしまったような。
でもだんだんと戻る意識の中で見えてきたのは2本の土筆。
不思議そうな顔でこっちを見ていた。
今となれば笑い話だけど、あのとき死んでいてもおかしくなかったね。
春の陽気の中で土筆に看取られながら死ぬなんて
そんなのはおとぎ話のお姫様みたいでまっぴらごめんだよ。
じゃあ、また手紙を書くね。
手紙を書いていれば元気なんだから。
もうキノコには近づかないさ。
顔から出てくる雨より。
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