丘に咲くきみへ
やあ、元気かい。
一日だけずいぶん暖かい日があったろう。
小さな虫たちが石の下や木の根からよちよちと出て来るのを見たよ。
きっときみも広場や河原へ遊びに出たんじゃないかな。
みんなお天道様にはやく会いたいんだね。
ずっと長い間顔を見ていない気分だ。
もっとずっと空で笑っていてほしいのに。
さて、そんな暖かい日に新しい友達ができた。
湖のそばにある、よく陽のあたる小さな丘に住む彼は
温厚で頭が切れて夢見がちな目を持った小柄な男。
歳をきいたけど、太陽と月にはもう数えきれないくらい会ったと言われた。
彼は今日の陽気は今日の夕方までで、
夜からはまた冷たい風が吹いて明日は霜がおりるから
明るいうちに薪を集めておいたほうがいいと教えてくれた。
この丘より森側へ行くと狼の縄張りがあるそうだ。
物知りな彼と話をするのは楽しかったしとても為になった。
森で薪を集め終わってからも、少し話をした。
彼は以前、この湖の周りを一周したことがあったらしい。
太陽を浴びながら歩き食事をしてまた歩き、夜になったら休む。
何度も何度もそれを繰り返していたら、またこの丘に辿り着いていた。
旅に必要なことは、求めすぎないことなのだそうだ。
幸福と不幸はいつもと同じようにやってくる。
もしかしたらどちらかが多いと感じるかもしれないけれど、
それはその場所のリズム。
旅はそのリズムを感じながら歩くこと。
だから自分の生活と頭の中は常にシンプルである必要がある。
そう言っていた。
今はテントの中にひとりでいるよ。
キンと冷えた空気の中で、昼間拾った薪が鳴っている。
朝靄の中で踏む霜の感触を想像しながら
今夜は目を瞑るよ。
おやすみ
自由に走る馬より。
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