「進め なまけもの」- 斉藤和義

なまけものは なまけていました

いつものように ゴロゴロしていました
なまけものにとっては 何もかも どうでもよかったのでした


突然 何の前触れも無く 頭の中で音楽が流れ出しました
いつか どこかで 聞いた事があるような 無いような そんな音楽でした
なまけものは 立ち上がって 進み出しました
何か変な 不思議な気持ちがしてきて
何が何だかよく分かりませんでしたが 進まずにはいられませんでした
でも 一体どこに進めばいいのか分かりませんでした
自分がどこに進みたいのかも分かりませんでした
いくら考えても分からないので とにかく進みました


しばらく進むと 亀に会いました
亀は ノコノコ ノコノコと歩いていました
なまけものは しばらく亀を眺めていましたが 
あまりにも ノコノコ ノコノコと遅いので だんだん眠たくなってきて
そのまま ごろん と横になってしまいました


ウトウトし始めた頃 夢の中に さっきの亀が出て来ました
亀は うやうやしく楽器を取り出して それを弾き始めました
リズムに合わせて メロディに合わせて
次から次へと 別世界が 現れては消えました
演奏は素晴らしいものでした
亀は 最後に あの音楽を弾き始めました
なまけものは また あの変な 不思議な気持ちがしてきて
何が何だかよく分からないまま 進み出しました
しかし 何か変です
楽器を弾いている亀が どんどん どんどん 大きくなってきました
それどころか 周りにあるもの全てが どんどん どんどん 大きくなっています
進んでも 進んでも 亀を追い越せません
なまけものは 思いました
亀が大きくなっているんじゃない 自分が小さくなっているんだ
どんどん どんどん 小さくなって
他の何よりも小さくなったところで 目が覚めました


なまけものは ちっとも進んではいませんでした
亀も もうそこにはいませんでした
あたりを見回しても どこにもいませんでした
なまけものは 何とも言えない気持ちになりました
でも 亀が弾いていた あの音楽はまだ 小さく 頭の中に残っていましたので
やはり 為す術もなく 進み出しました


進んでも 進んでも 何も起きませんでした 誰にも会いませんでした
時間が経つにつれて なまけものの悪い癖が出て来ました
少しずつ 何もかも どうでもよくなってきたのです
なまけものは 進むのをやめて
そのまま ごろん と横になってしまいました


どれくらいの間 そうしていたでしょうか
気が付くと いつの間にか どこからか 誰かが来ていました
よく見てみるとそれは 自分でした
もう一人の自分が 何を言うでもなく すぐそばに立っていました
気のせいだと思い 放っておきましたが 
何度見ても 何を言うでもなく いつも 自分はそこにいました
どれくらいの間 そうしていたでしょうか
なまけものは 何か変な 不思議な気持ちがしてきて
いつの間にか 小さな声で あの音楽を口ずさんでいました
リズムも メロディも 自然と出てきました
また なまけものは 進み始めました


相変わらず どこに進めばいいのか分かりませんでした
自分がどこに進みたいのかも分かりませんでした
それでも あの亀を あの演奏を思い浮かべながら
少しずつ 少しずつ 進みました
進みながら なまけものは 思いました
いつか どこかで 聞いた事があるような 無いような あの音楽は
もしかしたら 本当は ずっと 流れているのかも
ふと見てみると もう一人の自分は もうそこにはいませんでした

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このページは、くるっくるが2013年1月 6日 17:46に書いたブログ記事です。

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