拝啓、耳たぶ透き通るきみへ。
とうとう夏が終わるね。
テントの中で寝転んでいる背中に、土の冷たさを感じるようになった。
耳元で聞こえる虫の声も、心無しか大人しいそれに変わったようだよ。
今夜は生成り色の毛布を肩までかけて手紙を書いているんだ。
すぐそばには濃いミルクティー。
きみが言っていたように、鍋で煮詰めて作ると格別だね。
疲れた足の先まで温かさが染み渡るよ。
今朝、ラジオからはっぴいえんどの「田舎道」が流れてきた。
マーマレード色のおてんとさまに見下ろされながら川のふちを歩いている時だった。
すこし開けたところに出て、写真を撮ったよ。
段々畑にはなにが実るのだろう。その先の畑には?
小さな山のむこう側にはもう秋がきているのだろうか。
そういえば冷たい風はあの山のほうから吹いている気がする。
物悲しい香りをのせて秋はこの場所にもきみの住む街にもやってくるのだ。
青々とした緑たちはそんなの気にしていない素振りだけど。
そんな夏の強さに倣って、曲に合わせた手拍子と足取りであの坂道を駆け下りたよ。
足下を舞い上がる白い砂の中でじっとりと汗をかいた。
呼吸を整えながら耳をすませば、なんだ、まだ蝉の声がする。
おてんとさまが夏を引き止めているのだろうか。
マーマレード色のおてんとさまが。
明日も歩くよ。
ここにも居場所はないみたい。
近くに湖があるようだから、そこを目指して行ってみる。
そろそろ焼いた魚でも食べたいところだ。
今日みたいないい天気だといい。
じゃあね。
いつもきみが幸せでありますように。
お天気屋の旅人より
キングレコード (2012-10-03)
売り上げランキング: 70,877
Comment