井の中の蛙。
それはおれのことだ。
この井戸は古井戸らしく、おれ以外に誰も使うやつはいない。
ここを見つけたときは「しめた」という感じだったな。
先客がいないか注意しながら入っていくと、まさにそこは手付かずのフロンティア。
おれはここを終の住処にすると決めたってワケだ。
思えば、まだオタマジャクシだった頃から常に生命の危険に晒されて生きてきた。
ずっと、この世は魑魅魍魎が跋扈する弱肉強食の修羅の国だった。
次々と食物連鎖に呑み込まれていく仲間たち。
その地獄絵図のような光景を横目に必死で逃げ回って何とか一日一日を凌いできた。
そしてある日偶然、運良くここを見つけたのだ。
が、おそらくもうじきおれはここを出なくちゃならないだろう。
せっかく、上位捕食者のいないこの楽園でこの世の春を謳歌していたというのに。
理由はただ一つ。
いつの日からか、少しずつ少しずつここの水位が下がってきた。
完全に水が涸れてしまうのも時間の問題なのは火を見るより明らか。
どうやらおれは、完全に水が無い場所では生きていけない種類のカエルらしいのだ。
雨はもう長い間降っていない。
この楽園の外で、果たしておれはまたサヴァイヴしていけるだろうか。
おそらくそれは難しいだろう。
だらけきった平和を安穏と享受してきたおれにとって、ここ以外に安住の地は無い。
地獄絵図の出演者になる時が来るのもまた時間の問題である。
暗い井戸の底から遥か上にある入り口を見上げる。
真っ黒の中にポツンと見える真っ青な空。
その、美しく清々しいまでの青さを、恨めしく思う。
そろそろ梅雨の時期ではなかったっけっか?
温暖化の影響か?
ヒートアイランド現象か?
砂漠化か?
まったく、人類め・・・。
「・・・夢か。」
目を覚ますとアンテナの折れたラジオが割れた音で歌っていた。
Take myself from your eyes
Take myself from your eyes
ジョン・フルシアンテを背中で聞きながらカーテンを開ける。
分厚い雲に覆い尽くされた暗い街が、しっとりと濡れていた。
やさしいやさしい雨が、音も無く降り続けた。
Warner Bros / Wea (2004-02-23)
売り上げランキング: 6,274
Comment