走る、走る。
夏の照りつける日差しの中。
目に汗が入って、開けてられない。
それでも、こんなに必死に
走った事ってあったかな?と思うくらい
力の限り、走る。
今日こそ、あの子と会って話すんだ。


彼女の存在に気づいたのは、
雪のちらつく冬のある日。
通学途中に、ふと視線を感じて
横を通り過ぎるバスを見上げたら
全部曇った窓ガラスが一箇所だけ丸く拭いてあって、
そこからこっちを覗いている女の子が、
手袋を嵌めた手を嬉しそうに振ってる。
はて‥誰だ?
遠目だし、バスは一瞬で通り過ぎたから
顔はよく見えなかった。
元々、この辺に住んでる友人もいない。
多分自分じゃなく、近くの誰かに手を振ったんだろう。
その時は、そう思ったんだけど。

次の日も通り過ぎるバスを見上げたら、
やっぱりこっちへ手を振ってる女の子がいる。
そして、次の日も。
試しに手を振り返したら、
「あっ、気づいた!」って風に強く手を振って、
すごく嬉しそうに笑ってたのが一瞬見えた。
完全に自分に向けて手を振っている。
でも、結局誰なんだ?やっぱり、心当たりがない。
学校の友人たちに聞いても、誰も知らない。
誰かとの共通の友人でもないようだ。
不思議に思いながらも、
いつの間にかその子が乗っているバスの
行き先、時間も覚えてしまっていた。
そして毎朝、彼女が乗ってたら、
お互い手を振って、笑って挨拶する。
それが日課になっていた。
たまに乗ってない日があると、
なんだか落ち着かない感じがした。
どうしても気になる。
機会があれば、会って話してみたい。
そう思うようになっていた。

そして、半年ほど過ぎた夏休み直前のある朝。
「今日こそ、彼女と話してみよう」と決めた。
しかし、問題がある。
彼女が乗ってくるバスは、通学方向と真逆。
下手に乗ると学校にはまず遅刻する。
しかも、確実に毎日乗ってくるとは限らない。
どこから乗ってくるかも皆目わからないから、
もちろん先回りもできない。
そこで、ごくシンプルな計画を立てた。
『荷物をなるべく軽くして、
あの子の姿を確認したらダッシュで次の停留所まで走る。
首尾よくバスに追い付いたらひとつ先の停留所まで乗り、
ちょっと話して連絡先を渡し、すぐ降りる』
いつもバスに出会うポイントから次の停留所まで
距離にしておよそ400mくらい。
約200m先の交差点で歩道橋を渡り、右折するから
階段の昇り降りと曲がりの減速を加味する必要がある。
元々足は早くないので、
バスとの競争で勝てるかどうかまるで自信ないけど、
これしかない。
教科書は‥重くなるな。全部ウチに置いて行こう。
靴も走りやすいものにしておこう。

そして、いつもの時間、いつものポイント。
彼女は、いた。
いつものように、笑って可愛らしく手を振ってくれる。
それを確認した瞬間、僕は走り出した。
だけど、少し走ってみてマズい事に気がついた。
「バス、意外に速えよ!」
そう、バスは大きいぶん鈍重そうな気がしてたけど、
本気で並走してみると、当然速い。
みるみる、距離が離される。
これじゃ絶対間に合わない。と、思ったその時。
例の歩道橋の交差点の信号が黄色、そして赤に変わった。
バスは、ゆっくりと停車する。
「しめた!」
この間に距離を稼ぐんだ。
自分でも驚くくらいのスピードで、
歩道橋を駆け上がり駆け下りる。
降りる最中、横目でバスが通り過ぎていくのが見えた。
あとは停留所まで直線、約200m。
バスは50mほど先行しているけど
目標の停留所は駅に近いから
車道も混んでるしバス待ちの人も多い。
このペースなら、充分射程距離内。
歩道橋の昇り降りで足がガクガクしてるし、
息が切れて肺は焼けつくようだけど、
このチャンスに追いつけなかったら次はない。
足を、止めるな。

〜長すぎるので、続く、、かも?〜

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このページは、YUKIが2015年7月26日 01:20に書いたブログ記事です。

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