とあるバーで、その店の従業員さん達がみんな集まっていた、
閉店したその店の片付けを手伝うために。
壁にかかったポスターが剥がされていく、
棚の食器が新聞に包まれて段ボールに飲み込まれていく、
残ったすべての酒ビンも段ボールに飲み込まれていく、
何も無くなったカウンターには雑巾がかけられる、
すべてのものが片付けられてきれいに掃除されていく、
そして何も無くなって見違えるほどきれいになった、
思い出とともにすべてが片付けられた、
すべてが片付けられてきれいになったその店内は
いつもの慣れ親しんだその店とは違って妙によそよそしい、
親友が突然、赤の他人になったように。
さあこれで完全に終わりだ、みんなありがとう、
もう帰ってもいいよ、お疲れ様、店長がそういった、
それからなんとなく雑談が始まり、ダラダラと時間を過ごした、
どれだけ時間が経ったのだろう、もういい加減に話すことも無くなった、
会話が途切れ始める、やることもない、
そう、みんなはもう帰っていいのだ、
でも誰も動かない、動けないと言ったほうがただしいのか、
そう、名残惜しさからみんなそこから動けなかったのだ…、
やがて諦めるように緑色の扉からみんなを出して
最後の鍵を閉めた、もう二度と開けることのない扉を閉めた。
そしてそれは生涯忘れることのできない、
切ない光景の一つとなって僕の心の中に残った。
ある年の春の話。
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