「きみしかいない」- たま

「きみしかいない」- たま


剥き出しの腕にひたりとぶつかり伝う9月の雨みたいな
いじわるな人になりたいな
意図せず這わせた指を命綱のように握って離さない赤ん坊みたいな
わがままな人になりたいな
部屋の隅で誰にも気づかれずカラカラに乾いて外傷のない身体を丸めて死んでる虫みたいな
かわいそうな人になりたいな

名前を呼んでも振り返らないよ
名前なんてないの
世界一のリアリストになって
遠くのお山で吠えてる山犬だけを大事にしたいの
植物の種子がどこへ飛んでどこで着地しようが関係ない
朝の光に似合う若さなんてとうに死んだし
夜に紛れて笑うほど強い気持ちも別な話。

知ってるかもしれないけれど
それはもう全部が遅くって
思ったよりもまだ余裕がある。
慌ててゆっくり開けばまだ
声帯は震えたばかりだし
フィルムは光を受けていない

大丈夫なんでないの
大丈夫
あぁ、そう
まだだったの。
まだだよォ

だから何度も言ったじゃないよ
ターキーのためだけにあるんじゃないって
何度も言ったさ
晴天から雨粒が落ちてくるって
わかってんだろう
黒いふちだけナゾッていけばいいって
そうしたら指の先にぶつかるのは舐め腐ったあの鼻っ面。
わかってんだから、安心でしょ

神様にも教えたげて
王様にも魔法使いにも社長にも
寝てる顔を真上から見下ろして
見た目だけで生きてるか死んでるか計る面白さ。
首に手をやってもいいけど、親指だけだよ。
オオサンショウウオみたいなその顔
反吐が出そう


お星様を全部数え終えるまで寝かせてあげないからね。
言うこときかないと電池外しちゃうからね。
嬉しくって悲しくってどうしたらいいかわからないんでしょ
全部おしえてあげるよ
だから黙って数えていなさいよ
痛いの?怖いの?
ちゃんと数えられるといいねぇ。
ひとつも忘れちゃいけないよ。


人魚姫に足をプレゼントしちゃう魔女みたいな
やさしい人になりたいな
岩だらけの坂道をぶつかりながら転がっていく小石みたいな
素直な人になりたいな
怯えた目で笑って蹲るきみみたいな
しあわせな人になりたいな

剥き出しの腕にひたりとぶつかり伝う9月の雨みたいな
いじわるな人になりたいな
意図せず這わせた指を命綱のように握って離さない赤ん坊みたいな
わがままな人になりたいな
部屋の隅で誰にも気づかれずカラカラに乾いて外傷のない身体を丸めて死んでる虫みたいな
かわいそうな人になりたいな


欲しいものきみは全部もってるね。

それがすごく羨ましいんだよ。

END

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このページは、小椋夏子が2014年9月16日 18:04に書いたブログ記事です。

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