ある日、やわらかい風が吹く大草原の上に一つのうんこが誕生した。
黒くて太く、三段にトグロを巻いた、生まれながらに威厳と風格が漂う堂々たるうんこだった。
それだけなら別段珍しくもないのだが、このうんこは他のうんことは明らかに一線を画していた。
三段トグロをバネのように伸縮させて跳ぶ、という移動能力を備えていたのだ。
しかも、微生物によって分解されない、つまり「腐らないうんこ」だった。
これは、この突然変異うんこの旅の記録の、ほんの一部である。
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ある日、いつものように飛び跳ねながら草原をぶらついていたうんこに、衝撃が走った。
とあるうんこに出会ったのだが、これまでに会ったどのうんことも違っていた。
ツヤがあって若々しく、形も清楚で気品に満ち、香りも申し分無い。
オスうんこであった彼は、一目見てこのメスうんこに心を奪われた。
彼はこの高貴なうんこ姫、いや、姫うんこに話しかけた。
自分が特殊な体質であること、遠くの方から来たこと、それまでの数々の冒険談。。。
次々と色々な話をし、姫うんこの方もまたその話を楽しんでいた。
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、彼女のもとへやって来ては、話をした。
彼は、旅に出たかった。この姫うんこと一緒に。
自分が見た景色を彼女にも見せてやりたかった。感動を共有したかった。
でも、それが叶わないことを彼は知っていた。
彼女は移動能力を持っていない。そこから動くことはできないのだ。
そして。。。
見てみぬふりをしていたが、時間の経過と共に姫うんこの腐敗は確実に進行していた。
ツヤも若々しさも、香りも曲線美も、もはや失われていた。
彼は焦っていた。諦め切れなかった。
そして、悩んだ末に一つの事を思いついた。
自分と彼女がひとつになれたなら、もしかすると。。。と。
最後の望みを託して、彼は彼女に跳び乗った。
しかし、ふたつのうんこがひとつになる事は無かった。
飛び散った彼女のかけらは、相変わらず着々と微生物によって分解され続けた。
いよいよ無残な姿になった彼女を前にして、彼は自分を責めた。
生まれて初めて、自分の体質を呪った。
いっその事、彼女と一緒にこの大草原に溶けていきたかった。
ありがとう、と姫うんこは言った。
あなたの話を聞くのが楽しかった、と。
あなたがそばにいてくれたのがうれしかった、と。
もうすぐわたしは消えてしまうけど、それは消えたように見えるだけ。
これからあなたが見る色んな景色に、今度はわたしがなる。
そんな気がするの、と。
そしてもう一度、ありがとう、と。
それから、どれだけの時が経ったのか。
誰もいない草原を後にして、赤い夕陽を背中に浴び、一つのうんこが跳び去っていった。
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