長い長い眠りから覚めた朝
幼虫が脱皮するように 蛹が羽化するように
Kはゆっくりと布団から起き上がった
ぼさぼさの髪 ぐうぐう鳴っている腹
エンドレスリピートで同じ曲を繰り返し再生しているCDプレイヤー
トイレのドアよりも 冷蔵庫のドアよりも
まず先に開けたのは 地上三階に位置するこの部屋の窓のカーテン
朝の光を浴びながら伸びをした その時
パジャマのサイズが心なしか小さくなっている事に気付いた
と同時に 窓の外の様子が何かおかしいという事にも気付いた
かすかに町並み全体を包む白いもやもや
そのもやもやを太陽が照らして
町全体がぼんやり光っているようにも見えた
電線の上に群れるカラスも
手をつないで保育園に向かう親子も
くたびれたスーツにその身体を乗っ取られたみたいな猫背のサラリーマンも
何度も目をこすってみても
うっすらとやわらかい光を放っているように見えた
熱いシャワーでも浴びようと 服を脱いで浴室に向かったが
お湯が出ない それどころか水も出ない
仕方なく部屋に戻って冷蔵庫を開けたものの
どれもこれも賞味期限はとっくの昔に切れていた
缶ビールもまた然りだったが 半ばヤケになったKは
お構いなしにそれを開けて 勢いよく体内に流し込んだ
ようやく意識がはっきりしてきたので
再度窓の外を見てみたが 白いもやもやは相変わらずもやもやしていた
何となしにテレビをつけてみると どこの局を回してみても
見た事も無いような いつか見たような 映像と共に
「戦争」の二文字がデカデカと踊っていた
しばらくザッピングした後 テレビを消して
延々同じ曲を流しつづけているCDプレイヤーの音量を上げた
頭からケツまで しっかりと体内に流し込む
目一杯まで上げて 缶ビールを最後の一滴まで飲み干したら
白い糸でも吐き出すかのように口を尖らせて
Kは再び くちゃくちゃの布団にくるまって
深い深い眠りにおちていった
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