「飴色の部屋」
ふと遠い異国を旅した時の気持ちが蘇り、出られない夢の中にいるようで心細くなった。
ブーツを脱ぎ捨て、クイーンのいないキングベッドにどっかりと腰を下ろす。
倒れたブーツから転がり出てきたのはネズミの小さな前足だ。
今日一日の不運を込めてそれを睨みつけ、
レモンをしぼった水を飲み込むが乾きは一向に収まらない。
だんだんと息もうまく通らなくなる。
干涸びた石鹸のようにひたすら水を求めても何も変わらない。
トーマスは言った。
「それはレモンじゃないよ、ジェイ。」
はね除けたグラスは壁にぶつかり粉々に割れた。
ブラインドに染み込む夕日は触れた順に濃くなっていく。
ゆっくりと滑らかに上がるチューナーの針が60を指すと、
ラジオから聞き慣れないサイレンが聞こえてきた。
じっと息を殺し、自らの首と壁との境目に意識を集中させる。
次第にサイレンは豚の鳴き声に変わり、部屋は端からとっぷりと西日に染まっていく。
「ジェイ!」
ベッドから飛び降りて勢いよくドアを目指すが、半分の円に足が嵌ってもたつき上手く歩けない。
やっとのことで辿り着いた鍵穴に長くのびた汚い爪を差し込めば、開いたのはろくでもない扉。
飴色に染まりきった、この部屋だった。
END
飴色の部屋 (ベスト オブ くるり Remastering)
posted with amazlet at 14.01.18
Speedstar (2013-03-21)
Comment