「星を食べる」 - たま


音のない空に浮かぶきみへ


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やあ、気分はどう。
今朝は夏の匂いがしたよ。
きみが一番好きな季節の匂いだ。
太陽と土と草の根っこ、それから虫の背中の匂い。
朝露でしっとりとした草と草の間を抜けて
鼻の穴を通り過ぎ、脳に届き、
記憶の中のきみが機嫌を良くした。
だから現実のきみはどうかなと思ったんだ。
同じようにご機嫌だといいのだけど。


ところで昨日、夜が明ける様子を見ていたんだ。
夕方から眠りこけていて早くに目が覚めたせいだよ。
漆黒だった空の黒みがだんだんと抜けていって
紫や青や赤のグラデーションが山々の間まで隅々染めていった。
煌煌と輝いていた無数の星たちも、その姿をゆっくりと空に沈めていって
やがて鳥の声と共に太陽が顔を出してきた。


その時、一筋の光が空を流れた。

その先にある湖の水面が小さな飛沫をあげて揺れたのを見て
追いかけて見てみると、拳くらいの何色とも区別し難い色をした石が
底から舞い上がりゆらめく砂の中に微かに見えた。
手に取ってみると仄かにあたたかくて
睡蓮の花のような香りがする。
その香りを嗅いだ時、妙に胸が高鳴り全身が熱くなるのを感じた。
とてもとても大切なものを手に入れた気がしたんだ。
何があっても手放してはいけない大事なものだと。
そう思った瞬間、周りがとても気になった。
誰かに見られていたらどうしようかと不安になり、
上着に隠して早くテントの中へ隠そうと一目散に走り出した。

しかしあっという間に足を泥ですべらせて転び、
石は草の上を勢い良く二転三転してから再び湖の中へ入ってしまった。
くじいた足をさすりながらふと石の辿った道を見ると
石が転がった場所にある草だけが色を変えしんなりと枯れていた。


後から古い旅人が書いた本に、流星の落し子について書かれたものがあったのを思い出した。
星は長い長い命の間、
何千何万何億人のたくさんの人たちの願いや想いを背負ってきたから
その欠片である流星の落し子にも特別な力があるそうだよ。
それって一体どんな力なんだろう。
きみは知りたいと思うかい。
ほんのすこし、怖いよね。


じゃあまたね。
新鮮な君が毎朝目覚めますように。

カラフルな影より

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このページは、小椋夏子が2013年5月18日 21:41に書いたブログ記事です。

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