「Crazy Love」- Van Morrison

部屋というのは生きている、息をしている、
多分生き物なんだと思う。
そして、そこにあったものが何か一つ欠けるだけで
まるで別人の様に変わってしまう。

その日、僕たち2人は彼女を抱いて斎場へ向かっていた。
はじめ、彼女をゲージに入れて持って行こうとしていたが、
妻がどうしても抱っこして行くという、
いくらタオルでくるんでいるとは言え、
死んだネコを抱いてバスに乗るのはちょっと気が引けた…、が、
そう言う妻を止める気にはどうしてもなれなかった。

タオルからのぞかせる彼女の顔はまるでいつもみたいに眠ってるようだった。
代わりばんこに僕らは彼女の頭をなでた。
返事がないと分かっているのに何度も彼女の名前を呼んだ。

周りをみると極普通の一日、
沢山の人たち、それぞれの日常…。

何気ない会話を交わす母娘…、
新聞をめくる老人…、
窓の外の公園では少年達が野球をしている…。
妻の腕の中で彼女は眠っている、もう目を覚ます事はない。
周りの当たり前の、当然の光景がとても不自然に見えた。

途方もない不自然に包まれたまま僕らは斎場に着く、
5万円になります、
準備をします、その間最後のお別れをしてください、
それでは準備が整ったので向かいましょう。

あっけないくらいに淡々と、そして適切な手順で事は運ばれて行く、
そしてあっという間に彼女は赤ちゃんの頭くらいの箱に収まってしまった。

帰りのバス、窓の外には雨が降っている、
何も思い浮かばない…。

やがて家に着く、するとどうした事だろう?
自分の家、自分の部屋までも様子が変わってしまった、
まるで昨日までとは別の家のように、
僕たちによそよそしい態度を取るようになってしまった。

君も彼女がいなくなってしまったのがそんなにイヤなのかい?
もう部屋のそちこちでおしっこもされなくて済むのに?
もう部屋中が毛だらけにならなくても良いのに?
もう壁やソファーで爪研ぎされなくても済むのに?

そうだね、全然構いやしない…。

すみません、彼女を連れ戻すにはおいくらですか?
神様、お願い、彼女を返してください。

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このページは、Hayaが2014年7月28日 19:35に書いたブログ記事です。

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